コラム
2020年6月29日
クリニック経営の医療法人化、メリットとデメリット|医療法人にするには?
目次
クリニックの開業や経営をしている方の中には、将来的に医療法人になりたいと検討している方も多いと思います。医療法人になることで節税効果などさまざまなメリットが得られるイメージが強いですが、注意しておくべきデメリットも存在します。今回はクリニック経営の医療法人化について詳しく解説します。
そもそも医療法人とは
はじめに医療法人について解説します。そもそも医療法人とは、医療法に基づき設立された病院や診療所老人保健施設などを開設または所有を目的とする法人のことを指します。クリニック開業時から医療法人として設立するケースもありますが、個人経営でクリニックを開業し、のちに医療法人になるケースが一般的とされています。また、医療法人としてクリニックを設立する際、各都道府県知事の認可を受けることできなければ医療法人になることはできません。
クリニックの医療法人化とは
クリニックを医療法人化した場合、個人営業のクリニックと比べ、税率や税務の違いが発生します。給与所得控除が受けられるなど節税効果がある一方で、個人営業時よりもより細かな税務管理が必要となります。また、資金管理方法も異なり、個人経営と比べて資金分けが明確に行えるようになります。
個人営業のクリニックでは事業としてのお金も開業医個人のお金も、開業医個人の口座で管理していることが多いですが、医療法人化した場合は銀行の法人口座を開設することになり、個人と事業それぞれの資金を明確に分けることができます。
医療法人には種類があり、大きく分けて医療法人財団と医療法人社団に分けられ、さらに以下のような種類が設けられています。
・出資持分ありの医療法人(社団のみ)・出資持分なしの医療法人(財団&社団)
・社会医療法人(財団のみ)
・特定医療法人(財団のみ)
医療法人の種類についてはこちらの記事でも詳しくご紹介しております。医療法人の種類について詳しく知りたい方はぜひこちらを参考にしてみましょう。
医療法人化のメリット
クリニックを法人化するメリットには、以下の3つが挙げられます。
・給与所得控除など節税効果が見込める・退職金が支払える
・事業拡大につながる
医療法人化することで、金銭的なメリットだけでなく、将来のクリニック経営にとってもメリットが得られます。
さっそくそれぞれのメリットについて見ていきましょう。
給与所得控除など節税効果が見込める
クリニックを医療法人化することで、理事長が家族を従業員または役員として在籍させることができ、給与を支払うことができます。給与として支払う金額が大きいほど、クリニックにかかる税金を軽減することができます。また、所得税や住民税などの個人課税は、法人課税に切り替わると同時に最高税率が下がるため、さらに大きな節税効果が得られることもあります。退職金が支払える
医療法人化することで、個人経営のクリニックでは認められていなかった退職金の支払いが可能となり、理事長が、従業員または役員として在籍していた家族に対し、退職金の支給ができます。退職金は通常の給与よりも税金の軽減が優遇されるため、退職金の支払いによってクリニックの節税効果にもつながります。
事業拡大につながる
医療法人化したクリニックは、分院や介護事業所といった複数の事業所を同時に経営することが可能であるため、事業拡大につながり、経営の幅費を広げることで高収益が見出せます。また万が一、理事長が死亡した際にも法人として経営を続けることができるため、相続にも有利となります。例えば理事長の子どもがクリニックを承継する場合、医療法人であれば別途開設許可を受ける必要もなく、相続がスムーズに行えます。
医療法人化のデメリット
一方、クリニックを医療法人化することで下記のようなデメリットも生じます。
・運営管理が煩雑・出資持分がない
これらのデメリットは今後のクリニックの経営はもちろん、退職時にも大きな影響をもたらすため注意が必要です。
運営管理が煩雑
医療法人化するということは、国の法律に基づいたクリニックであることを各都道府県に証明し続けなければいけません。そのため、個人経営のクリニックよりも制約が多くなり、毎年事業報告書や資産登記、理事会の議事録といった書類の提出を求められるなど、運営管理が複雑化します。それにつれて業務としてやるべきことも増えるため、しっかりと運営体制を整えるのはもちろん、経営的な知識も必要となります。
出資持分がない
出資持分とは、医療法人の設立に対し出資した人たちが得られる財産権のことです。出資持分のある医療法人では、出資持分を所有している人が、退職時または医療法人解散時にクリニックの資産の一部を受け取ることができます。
しかし、平成19年4月に行われた法改正により、出資持分のない医療法人しか設立できなくなったため、医療法人化したクリニックでは、たとえクリニックの資産や利益が生じても、理事長や従業員たちが受け取ることはできません。出資持分のないクリニックは残余財産と見なされ、医療法人解散後は国や地方公共団体などに帰属することになります。そのため、後継ぎのいないクリニックにとっては、医療法人化により損をしてしまいます。
クリニックを医療法人化する手続き
クリニックを医療法人化する際は、以下の手続きが必要となります。
・医療法人設立説明会に参加する・医療法人設立申請書を提出する
・医療法人設立登記申請を行う
・診療所開設許可申請書を提出する
ここまで終わったら晴れてクリニックが医療法人として経営できるようになります。個人経営のクリニックの廃止届を提出すると同時に、医療法人としてクリニックを開業するための届出を提出し、切り替えを行います。エックス線装置の廃止・設置に関する届出も必要となるため、忘れずに行いましょう。
これと同時に各種保険や施設基準届、公費医療関連指定申請書、法人設立届出書、青色申告の承認申請など、複数の申請を行うことになります。どれも診療開始後に提出可能で、最大3か月以内に行えば良いものなど、申請期間がそれぞれ定められています。必要な手続きが多いため、期間に余裕があったとしても、スケジュールを立てて取り組むようにしましょう。
まとめ
クリニックを医療法人化する際はメリットだけに注目するのではなく、デメリットに対しどのように対策できるかを視野に入れた上で検討するようにしましょう。また、医療法人化の手続きは複雑なものが多く、書類不備や提出漏れなどでスムーズに手続きが進められないこともあります。手続きに不安を感じる方は、医院経営支援サービス等を利用し、プロの力を借りて行うことも検討してみてはいかがでしょうか。