コラム
2020.06.23
クリニック・病院のM&A問題|事業の承継や譲渡の失敗事例から学ぶ
近年はクリニック間における競争が激化し、赤字経営に陥るクリニックも少なくありません。「景気に左右されない」業界ではなくなり、事業の存続に頭を悩ませている医師も多いでしょう。後継者不足等により、現状は問題なくても、存続が危ぶまれる例もあります。そんな状況において、生存戦略の1つとして考えられるのがM&Aです。収益性の拡大のために、M&Aを検討してみてはいかがでしょうか。
クリニックM&Aと一般的なM&Aの違い
一般的なM&Aの主体は、株式会社です。株式の譲渡や交換を通じてM&Aが行われます。しかし、クリニックM&Aの主体は様々です。
また、買収された側のクリニックの出資者が退任する場合には、持ち分割合に応じて、出資金を払い戻さなければならないこともあります。出資者が払い戻しを請求する権利があるためです。一般的なM&Aにおいて、買収された企業が出資者に資金を支払うケースはほとんどありませんので、この点もクリニックM&Aの特徴ということができます。
クリニックM&Aならではの難しさ
クリニックM&Aは、一般的なM&Aと比較して難易度が高めです。それは、以下の理由があるためです。
■ 個人・法人・持ち分など考量する点が多い
■ 医療から財務まで幅広い知識が必要
それぞれについて、解説をしていきます。
・個人・法人・持ち分など考慮する点が多い
クリニックM&Aは、開設主体によって大きく異なります。
個人開業のクリニックの場合、「資産売却」という形での譲渡となります。引き継がれるのは、クリニックの建物や使用していた医療機器だけです。
その他の負債や従業員との雇用契約、患者のカルテなどは引き継がれません。また、旧医院の廃止、新医院の開設を保健所、厚生局、税務署、社会保険事務所に届け出る必要があります。
一方医療法人のクリニックの場合、「出資持分譲渡」と「事業譲渡」の2つのケースがあります。「出資持分譲渡」では、取るべき手続きは、持ち分の売買と理事長や役員の変更といった手続きのみです。一方で「事業譲渡」の場合には、デューデリジェンスの実施や契約書の締結、社員総会での承認など、医療法人間での細かい手続き、さらには、保健所を始めとする各行政機関への届け出も必要です。
・医療から財務まで幅広い知識が必要
クリニックM&Aを手掛けるためには、患者の情報を引き継ぐタイミングや各種行政庁への届け出など、医療制度に関する専門知識は欠かせません。さらには、クリニック経営に関しての知識も必要です。
株式会社同士の一般的なM&Aの場合、特に発生する税金やその節税方法についての知識が問われます。もちろん、クリニック売却時には、多額の所得税がかかるケースもあるため、税金についての知識は不可欠です。
しかし、クリニックM&Aの場合には、それだけでは足りず、さらに幅広い専門知識が必要とされるのです。そのため、一般的なM&Aと比較して、クリニックのM&Aは難しいと言われています。
クリニック譲渡の価格相場
クリニックの譲渡価格の一般的な計算方法は「譲渡資産の時価評価+営業権」です。個人経営を始めとする、中小クリニックの譲渡価格の計算によく使われます。
小さなクリニックの場合には、譲渡価格が1000万円程度に収まるのが一般的です。しかし、安定した売り上げが見込めるような場合には、「営業権」の価格が加味され、逆にあまり売り上げが期待できないような場合には、減算されることもあります。大きな医療法人のM&Aの場合には、その価格が億単位になることもあります。
また、「営業権」の価格は、開業の需給バランスによって、上下するものです。例えば、ほとんど開業需要がないエリアでは、その地域の住民を丸ごと取り込めることになるため、営業権が高く設定されます。
クリニック継承の失敗事例
クリニック継承はいつも成功するとは限りません。想定されうる失敗事例について、3つ紹介します。
・急速な患者離れ
医院継承のメリットの1つは、新規開業とは異なり集患に苦労しない点です。基本的には、医院の患者は院長が替わったからと言って、通院しなくなるということはありません。
しかし、医院継承寸前に、前院長がトラブルを起こして、評判を落としてしまう可能性もあります。すると、前の医院の悪い評判が引き継がれ、継承のメリットを生かせません。むしろ前医院の負の遺産により、急速な患者離れを招くなど、集患に苦労することとなってしまいます。
・赤字医院の継承
継承した医院が慢性的な赤字経営で、立て直しが困難であるということもあります。院長交代が起爆剤となって、V字回復する可能性もありますが、新規開業でもないのに、既に他の医院に通院している患者を集めるのはかなり困難です。
医院継承前には、必ず経営状況について確認する必要があります。口頭での確認や代理人経由ではなく、しっかりと売上台帳や決算書を見るなど、信頼に足る証拠でもって確認することが望まれるでしょう。
・既存スタッフとの対立
医院継承の場合、看護師や事務員などのスタッフはそのまま残留するのが一般的です。そのため、継承した医師は、既存のスタッフに迎え入れられる形となります。
戦力的には申し分がないという点は大きなメリットですが、良好な人間関係が築けない場合には、お互いに仕事をやりづらくなるでしょう。最悪の場合、離職を招くかもしれません。
医院継承の際には、前院長からスタッフの人間模様を伺っておいたり、自分の色を出しすぎず、医院の色に染まっていくよう努めたりすることが求められます。
まとめ
クリニックのM&Aは一般のM&Aと違って一筋縄ではいきません。M&Aの形態によっても考慮しなければならないことが多々あります。また、手続きがスムーズにできたからと言って、必ず成功するとは限りません。継承前にきちんと医院の情報を把握しておかないと、蓋を開ければ赤字経営だった、なんていう事態も十分に想定されます。継承前には不足がないように、細かいところまで確認しておくことが大切です。