コラム
2021.06.20
医師の継承開業とは|新規開業と比較してメリット・デメリットをくわしく解説!
開業医として独立を成功させたいと調べているうちに、継承開業という方法が気になり始めたという方はいませんか?継承開業は、すでに開業しているクリニックを引き継ぐためコストを抑えられたり、開業までのスピードを早めたりすることができますが、デメリットもあります。この記事では、継承開業という新たな開業スタイルの知識を深めることが出来ます。クリニック開業の一つの選択肢としてご覧ください。
医院の継承開業とは
継承開業とは、引退を検討している開業医などからクリニックを譲り受ける方法です。継承開業は初期費用を抑えて開業したい人や、早急に事業を軌道に乗せたい人にとって有効な方法です。
すでにあるクリニックの建物や設備などを引き継ぐことが出来るので、開業時の費用を格段に抑えることが出来ます。また、すでにその場所にクリニックがあることは知られているので、一定数の患者を確保して開業をすることが出来ます。
継承開業が注目される理由
継承開業が注目されている背景に、開業医の高齢化があります。
以下の表は、厚生労働者が発表した「医師・歯科医師、薬剤師統計」のうち、診療所の医師数と平均年齢を2018年度版と、2004年度版で比較したものです。
2004年度 |
2018年度 | |||
医師数(人) |
構成割合(%) |
医師数(人) |
構成割合(%) | |
総数 |
92,985 | 100.0 | 103,836 | 100.0 |
29歳以下 | 355 | 0.4 | 207 |
0.2 |
30~39歳 | 6,878 | 7.4 | 4,543 |
4.4 |
40~49歳 | 23,725 | 25.5 | 18,305 |
17.6 |
50~59歳 | 24,760 | 26.6 | 29,027 |
28.0 |
60~69歳 | 14,734 | 15.8 | 30,734 |
29.6 |
70歳以上 | 22,533 | 24.2 | 21,020 | 20.2 |
平均年齢 | 58.0歳 | 60.0歳 |
ご覧の通り、2004年度と2018年度を比べると、一般的に医師として引退を考え始める年齢である60~69歳の構成割合が大きく増えており、また平均年齢も上昇していることが分かります。
医師として引退を考えるときは、既存の患者や設備などをどうするかという問題があります。
しかし、継承開業を受け入れることで、継承する側はコストを抑えた開業ができ、受け渡す側も患者と設備を引き継ぐ人がいれば安心して引退できます。このように双方にメリットがあるのが継承開業なのです。
継承開業と新規開業の比較
【新規開業】
【継承開業】
|
新規開業と継承開業、それぞれにメリットとデメリットがあるので、自分が開業にあたって優先したいことは何かをふまえて、十分検討することが大切です。
メリット |
デメリット | |
新規開業 |
|
|
継承開業 |
|
|
継承開業のメリット
継承開業はすでに開業している実績があるため、開業後に大幅に方向転換が必要になるというリスクは避けることができます。そのため、全般的な費用や、開業に向けての労力は新規開業より少ない傾向があります。以下継承開業のメリットについて解説します。
(1)開業資金を削減できる
継承開業は、開業資金を削減することができます。新規開業の場合、物件価格、クリニックの内装費用、電子カルテやレントゲン撮影、内視鏡などの医療機器、医療ベッドや待合室のソファ、テーブルといった什器備品、医師会入会金や広告宣伝費など、多くの支出が生じます。
診療科目にもよりますが、一般的には新規開業をした場合の初期費用は4,000~7,000万円が相場とされています。このうち、医療機器にかかる初期費用の目安は、診療科目や医療機器が購入かリースにもよりますが1,000~2,000万円程度。この医療機器の一部を引き継ぐだけでも、大幅な開業資金の削減につながります。その他、ソファやテーブルなどもそのまま使用すれば、さらに開業資金は削減できます。
開業にかかる初期費用を抑えたい人や、開業資金があまり用意できない場合、また開業後、キャッシュフローが悪化した時に備えて現金は持っておきたいという方には大きなメリットとなります。
(2)事業の見通しが立ちやすい
継承開業を利用する場合は、すでに開業しているため、来院している患者層や来院患者数単価などもデータとして残っていて、読み誤ることがありません。そのため、継承開業は新規事業よりは見通しが立てやすいといえます。
新規開業の場合は、どんなに綿密に市場調査をしていても、想定外のことが起こる可能性が高くなります。例えば、産婦人科として開業したが、高齢者のニーズが多かった、また、開業してみたら、競合が多く新規参入の余地がなかったなど、時には取返しのつかない致命的な失敗にもつながりかねません。
患者層の選定に自信がない場合場合は継承開業が有効です。
(3)患者や従業員を引き継げる
継承開業をした場合、既存の患者と従業員を引き継ぐことができる可能性があります。患者を引き継ぐことができれば、ある程度の売上が見込める状態で開業スタートができます。また、従業員も引き継ぐことが出来れば、新たに採用活動をする必要がなく、従業員の人件費についても開業時の事業計画に織り込むことができるのでさらに事業の見通しが立てやすくなります。
新規開業をした場合は、患者数をゼロから増やしていく必要があります。そのため、売上が立つまでに時間がかかり、経営が軌道に乗るまでにはさらに時間がかかります。また、従業員の給与や勤務時間などを決めて新たに募集をし、面接もしなければなりません。新規開業の場合は、事業が軌道に乗るまで約1~3年かかるといわれています。その間に、事業資金が底をついてしまうかもしれません。
早期にクリニック経営を軌道に乗せたい人にとって、継承開業はメリットになります。
(4)開業までの準備期間が短い
開業までの準備期間が短くて済む点も、継承開業のメリットです。新規開業の場合は、クリニックのコンセプト作成から患者層を想定、そして物件探し、開業資金の融資を受けるために金融機関に事業計画書などを提出する必要があります。物品を購入するための業者の選定、従業員との面接など全てにおいて時間がかかります。
一方、継承開業の場合はクリニックのコンセプトにあった所有者を見つけることは大切ですが、物件探しの時間がかかりません。
また、すでに開業して売上や来院患者数、経費などの費用も立てやすく、正確な事業計画書が作成できるため、再作成をする可能性は低くなります。
結果的に審査から融資までの時間が短縮される可能性があります。また、物品の購入業者もすでに存在しており、見直しが無ければそのまま継続できますし、従業員を新たに雇用する必要がない場合はさらに採用の時間も短縮できます。
継承開業は開業までの時間を短縮したい人にとっては有効な仕組みです。
継承開業のデメリット
継承開業は、既存のクリニックでの設備や実績を引き継ぐことができるため、見通しが立てやすく、新規開業よりも資金を抑えて開業ができ、開業までの時間も短縮ができます。しかし、すでに設備や実績があるがゆえのデメリットもあります。
以下、継承開業のデメリットについて解説します。
(1)前の所有者の意思も反映する必要がある
継承開業をしてクリニックを引き継いだとしても、前の所有者の意思を反映しなければならないことがあります。
例えば、長く通っている患者は、診療方針については前の所有者のアドバイスをもらった方がいいケースがあるかもしれません。
その他、取引業者でありながら、実は定期的にクリニックに通っている患者でもあり、取引業者の見直しによって患者を失ってしまうようなことも。従業員を解雇したら前の所有者の縁故者だったなど、従来のつながりが多く、継承開業をしても、前の所有者の開業医としてのキャリアが長いほど、すぐに自分のスタイルで経営することは難しくなるでしょう。
新規開業の場合はクリニックのコンセプトから、不動産会社の選定、開業地選び、顧客の開拓、従業員の採用も全て新しくスタートするため、前の所有者の意見はありません。全て自分の判断で、日々活動することが出来ます。
このデメリットを回避するためには、事前に前の所有者と密にコミュニケーションをとり、自分の開業のコンセプトと相手の経営方針、患者や取引業者、従業員との関係性などを綿密に確認しておく必要があります。
(2)既存の設備や内装のリフォームが必要
継承開業をした後に、当初は気が付かなかった老朽化や、内装や設備の面で使い勝手の悪さが気になるかもしれません。
新規開業であれば、あとから物件の損傷が見つかることはほぼありません。
仮にあったとしても、すでにあった損傷であることを証明できれば、補償してもらえる可能性があります。また、設備も自分が購入に携わっていたのであれば、機能やその置き場所に関してあとで後悔する可能性は、既存のものを引き継ぐよりも低いでしょう。
継承開業は開業資金が新規よりも少なくて済みますが、完全に自分の理想通りのクリニックを引き継げるとは限りません。ある程度、内装や設備を変更するための資金は用意しておきましょう。
医院の継承開業の流れ
医院の継承開業は以下のような流れで進めていきます。
【Step1】開業のコンセプトを決める
在宅医療の有無、診療科目、想定する患者の年齢層、医療方針などを決めます。
【Step2】クリニック継承先を選定する
自分の開業のコンセプトに近いクリニック継承先を選定、その後クリニックの内覧、開業医と面談をして、希望や条件、買取価格の合意、譲渡手続きへと進みます。なお、買取価格の相場は、規模にもよりますが2,000~4,000万円です。ここは、継承開業の最も重要な部分なので、必要であれば、マッチングサイトや専門家を活用しましょう。
【Step3】事業計画策定
現在の患者数、単価、経費などをもとに策定します。
【Step4】資金調達
事業計画書をもとに金融機関に融資を申し込みます。
【Step5】行政手続き
保健所の検査や、地方厚生局で保険診療医療機関の指定申請などを行います。
継承案件が見つからない時は、医院開業バンクで継承案件を検索・マッチングすることが可能です。
医院を継承開業する時の注意点
医院を継承開業する時は次の3点に注意が必要です。
- 廃業の理由を必ず確認する
- 患者離れの対策をする
- 引き継ぎ作業は綿密に行う
各項目について解説します。
廃業の理由を必ず確認する
継承開業する場合、受け渡し側がなぜ事業を譲渡したいのか、廃業の理由は何なのか必ず確認をしておきましょう。なぜなら、クリニックを譲渡したい本当の理由が、経営不振を原因とするものである可能性があるからです。
「高齢だから」という相手の譲渡したい表面上の理由を鵜呑みにして、廃業の理由を詳しく確認しておかないと、実際に継承開業してみたら、クリニックで医療事故を起こしていて評判が下がり、患者離れが進んでいたり、近隣に総合病院ができて、患者数が激減していたりしていたなどマイナス要因を抱えていることがあります。
クリニックを受け渡す側の廃業理由は必ず確認しておきましょう。
患者離れの対策をする
継承開業をすると、患者もそのまま引き継ぐことができます。しかし、患者の中には前のクリニックの所有者と長年築き上げた人間関係を重視して通っていた人もいるかもしれません。極力、全ての患者に引き続き通ってもらうことが一番ですが、継承開業をする場合、従来の患者が一定数減少することは考慮しておくことが必要です。
全く想定しておかないと、当初作成した事業計画書の想定患者数に乖離が生じ、ひいてはクリニックの売上にも影響が出て、経営難に陥ってしまうかもしれません。
継承開業をする場合は、あらかじめ顧客は一定数減少するということを想定した事業計画書としておくことや、患者に継承開業のあいさつを送るなど、すこしでも患者離れを食い止めることが必要です。
引き継ぎ作業は綿密に行う
継承開業は、前のクリニック所有者と綿密な打ち合わせを行いましょう。
引き継ぐ物件に損傷個所がある場合や、金融機関からの借り入れがあるかもしれません。
特に、スタッフとの人間関係には注意を払う必要があります。患者と同様で、クリニックの代表が代わった途端に、態度が変わってしまうスタッフもいるかもしれません。
継承開業は、事業、設備の他、スタッフもそのまま引き継ぐことが多いので、急な経営者の変更でスタッフは不安に感じている可能性もあります。継承開業の旨を丁寧にスタッフに説明し、ゆっくりと人間関係を構築していきましょう。
まとめ
継承開業は、引退や廃業しているクリニックを自身で継承して、開業をする方法です。
すでに医療設備があり、一定数の患者やスタッフもいるため、早い段階で経営を軌道に乗せることができるうえ、物件探しなどもする必要がないなど、開業までに必要な工程が少ないので新規よりも早く開業をすることが出来ます。
しかし、クリニックの譲渡を希望する理由が経営難だった、引き継いだ物件に損傷があった、引き継いだスタッフと業務で連携が取れなくなることがある、などの注意点もあります。また、従来の患者のうち一定数は離れてしまうかもしれません。
そのため、継承開業は受け渡しを希望するクリニックの選定先をしっかり比較、選定することが重要です。
医院開業バンクなら、多数の継承案件を検索・マッチングをすることができます。